日本実業史博物館準備室旧蔵資料
37TA
01.絵画/12.貿易
01.絵画
12.貿易
皇国製茶図会 第五号 蒸せし葉を丸め日に晒す図
明治18
1885
絵師: 落款: 本名等: 版元:   
技法:錦絵 法量:198×257
数量:1 
37TA/00066-001
00105
解説:茶の製造、流通の様子を図解したもの。茶は明治期には、生糸と並ぶ重要な輸出品であった。本作品が外国に輸出する船の出航で終わっていることも、茶に対する輸出品としての関心を示している。製茶法は、明治後期に考案される荒揉機等の製茶機はまだ見えず、手作業で行われるが、製品検査や、工場での集団の作業などに、新しさがうかがわれる。なお、各所に登場する製茶業者の半纏には丸に「矢」の紋があり、この図の作者秀月の姓「矢沢」を表している。作者秀月は明治前中期の絵師。生没年、師系は不明。『原色浮世絵大百科事典』には「下田氏。一説に戸田氏」とあるが、本作品には「画工兼出板人 横浜区住吉町一丁目一番地 矢澤喜久造」と記されている以上、少なくともこの時点では矢澤氏を名乗っていたことになる。また、同書には秀月の作例として「皇国製茶図会」(横大錦揃物 明治18 望斎秀月落款)が挙げられているが、本図の版型は中版なので、もし大事典が正しいとすれば、同年に別の「皇国製茶図会」が存在したことになる。各図には番号とその場面のタイトルが記されている。現存する7枚の内容は以下の通り。1.「第五号 蒸せし葉を丸め日に晒す図」農家の庭に筵を敷き、その上で蒸し上がった茶葉を、女たちが手でサッカーボール大に丸めている。女たちは、前掛、たすき掛け姿。子どもも作業を手伝っている。藤の花が咲いており、4月下旬から5月上旬という新茶の季節を示している。2.「第14号 海岸荷揚の図」茶の産地から、船で届いた茶の箱を人夫が運び出す場面。人夫は法被に股引、これを監督する男は黒い背広と帽子を着用。荷造りされた茶の箱には「皇国銘茶」「海上安全」等の文字が見える。3.「第十五号 茶商店先取引の図」商店の店先で商談が行われている。客は中国服の人物。洋傘を持つ。店側は縞の羽織を着た二人の男が応対する。店内には、荷揚げされたままの箱、茶壺、茶筒等が見える。手前の土間には犬が丸くなっている。4.「第十六号 商館売込の図」石造りの建物に荷造りされた茶の箱が人夫によって運び込まれる。門には表札があり、下部の「番」という文字が読める。門の前ではこの商館の主と思われる中国服の男と、製茶店の者と思われる男が会話をしている。建物の前を通りかかった女性と女中がその様子を振り返っている。女性は日本髪(島田か)に黒い羽織、手には洋傘を持つ。右手奥には、西洋人と思われる洋装の男女の後ろ姿。白い洋館の方へ歩いている。5.「第十七号 製茶見本検査の図」洋館の室内で茶の検査が行われている場面。一番左の男はやかんで湯を沸かし、左から二番目の男は天秤秤で茶の重さを量る。中央の羽織の男は伺いを立てる商人か。右手の西洋人と見られる男はスプーンを手にして、中央の男が示す箱の蓋(?)を見る。6.「第十八号 商館再焙の図」明治前期の製茶について『国史大辞典』には「栽茶・荒茶の生産形態は、小農による自園自製で、荒茶を火入れ、配合して再製茶とする再製工程は、茶問屋や輸出業者が営む工場で行われた」とある。本図はその再製工程に該当すると見られる。石造りの工場内では、煉瓦で作られた焙炉が並び、多数の女工が手揉み作業を行っている。画面右手の、上下が開いた形のざるに半纏姿の男たちが手を入れている工程は未詳、要調査。黄色地に花柄の立方体の箱は再製された茶を詰めたものか。工場の入り口では、作業に来た女工が、背負っていた幼児を下ろすところが描かれる。7.「第二十号 汽船海外へ出航の図」港から汽船が出航する場面。船は黒煙を吐いているが、同時に帆も開いており、風力と蒸気機関の力を併用して航行していると見られる。港には積み込みを終えて見送る製茶業者の人夫のほか、和装と洋装の人物が入り交じって船を見ている様子が描かれる。縞の小袖を着た若い女性2人組は2人とも洋傘を手にしており、当時の流行がうかがわれる。画面右下に四角い枠を切り、作者の落款が記されていることから、本図がこのシリーズの最終場面であることがわかる。(田島)
史料群概要
画像有