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解説:競合する商品や、対立する職業を目新しいボートレースに擬した諷刺画。ライバルに挙げたものは、小間物・着物・菓子・傘・酒など日本物と西洋物という和洋対照が主流になっているが、銭湯と温泉、茶漬屋に居酒屋、鰻めしと泥魚汁などの舶来品と無関係のものや、中島座と春木座・寿座・柳盛座という中小芝居小屋の併列もみられる。新富座と千歳座は対立というよりも共存関係で、同年春から新富座は改修にかかり、1月開場の千歳座の記念興行は両座の俳優が合同して出演している。鉄道馬車と便利蒸気とのように外来物の間で競争が生じているのは、新旧対立の明治初年の図式とは違った時代をあらわしている。その意味では、左下隅の金銀貸と紙幣が兌換銀行券の発行(同年5月)による乱発紙幣の回収という松方デフレ財政の根幹を示して興味深い。図中に挿入された説明用の短文に使われている一人称が、わし・おれ・わたし・ぼくら・われらなどと多種類にわたっているのも作者の才覚である。素材に利用されたボート競技は、明治16年ごろから本格化していたが、同18年4月には東京大学の各分科対抗試合で世間の耳目を集めたのを、早速借用したのであろう。(『明治開化期の錦絵』より)
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