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解説:玩具絵。組上絵。 この狂言は、1891(明治24)年1月興行の大切(おおぎり)に上演された「風船乘評判高楼(ふうせんのり、うわさのたかどの)」である。前年にイギリスから来日したスペンサーが風船乘りを披露して、世間の話題になったのを、早速題材に取り入れた一種のキワ物であるが、歌舞伎のもつ本質の一部でもある。スペンサー役を菊五郎が演じ、風船に乘って宙乘りを見せることが眼目になっているだけの小編であるが、風船が風に流された設定になっていて、急いで立ち戻って英語で挨拶するのを口上人が直訳するのも評判になった。歌舞伎座は2年前の1889(明治22)年11月に開場したばかりであり、話題性のある作品の上演も、興行政策として重要であった。 この絵は、全くの野外に設定してあるが、実際には勿論舞台上であった。ただし、舞台の奥は上野博物館の遠見の書割りとなっており、観客には野外を感じるように作られていた。出来上がり図によると、高さ2尺8寸、間口2尺3寸、奥行1尺5寸(約92.5×75.9×50cm)となるので、かなり大きなものになり、風船などは糸で釣り下げるように説明している。 ≪おもちゃ絵(玩具絵)≫ 子供を対象にして遊戯を中心に作られた版画のこと。寛政ごろ(1789~1801)には一応の発展をみたといわれるが、種類も豊富になって大量に制作されたのは安政(1854~1860)以後であった。 形式や内容は多種多様で、それらをもとにいくつかの分類が試みられているが、細分化するほど矛盾を生じるし、作者の目的とは別の興味で遊ばれていたこともある。おもちゃ絵を簡単に分類すると、(1)作品をそのままの形で使うものと、(2)作品を切り、折り、糊づけするなど加工して使うものに分かれる。ただし、(2)に所属する作品も、伝存しているものは、ほとんどが加工されずに原形のままで残っており、本来は加工して楽しむ作品を、ながめるだけで満足していた場合もあったのであろう。逆に、そのままの形で楽しむ(1)の作品といえども、例えば″もの尽し″の小図形を切り拔いて遊ぶことができるわけで、簡単な2大別さえも、必ずしも万全でなく、そこにおもちゃ絵の特色があるといえよう。
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