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解説:英単語に読みと訳、絵を付した、教育用の錦絵。現在197番となっているのは4枚あるが、うち3枚は「英語図解」というシリーズで、残りの1枚は「獣之部 鳥之部 蔬菜之部 果物之部」と記され、作者も版元も違う全くの別物。「英語図解」には左上の欄外に番号があり、その内容は以下のようになっている。弐:Commandant(提督)、Sailor(水夫)など、軍人の種類 Judge(裁判官)、Merchant(商人)など、各種の職業五:Rose(薔薇)、Bamboo(竹)など、植物 Grape(葡萄)、Turnip(蕪)など、果物・野菜十四:Helmet(兜)、Sword(刀)など、日本の武具 Stamp(印)、Ticket(切符)など、その他の日用品 現在は3枚のみだが、当初は14枚以上のセットになっていたことがわかる。 画工兼出版人として欄外に記されている福田熊次郎は、明治期の主要な版元の一人。「画工兼」となってはいるが、この場合、画家はほかにいると考えられる。人物の描写は従来の浮世絵臭を一掃し、植物の描写は博物図のごとく正確。そして、背景の暈かしは非常に繊細である。特に弐のNavy、Sailorの雲の描写は本格的な風景画を思わせる。十四、Stampの図をよく見ると印に彫られた文字が読める。そこには「英語」「探景」と書かれており、この図の作者が井上探景(安治)であることがわかる。子供向きとはいえ、上質の作りである。ただ、英語には間違いが散見される。(官吏OfficerがOffleerに、勲章MedalがMetalになるなど)。なお、筑波大学図書館に同じ福田熊次郎による『英語図解』が、折本形式で所蔵されており、そこでは明治20年と出版とある。 「獣之部 鳥之部 蔬菜之部 果物之部」は、左端の版元名が切れているが、「英語図解」の福田熊次郎とは住所が違うので、別の版元と見られる。画風も一見して異なる。 「英語図解」と比べると稚拙で、背景を暈かしの代わりに筋目であらわすなど安価な仕様である。加えて英語の間違いも多い。孔雀PEACOCKに「ファルコン」とカナが振ってあったり、桃PEACHがPEAOHになっていたりする。おそらく英語が分かる人のチェックのないままに、「英語図解」のような類品から、寄せ集めて制作したものではないかと思われる。(田島)
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