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解説:揃物の11番目。本図も、主題と採用された芝居絵との関係が明白でない。若菜姫は、歌舞伎では大伴若菜姫の名で登場するが、元来は柳亭種彦らが書いた合巻物の『白縫譚』を原作として脚色した作品で、原作では大友若菜姫といって、九州の大友家と菊池家との争乱を題材にしている。若菜姫は大友家の遺女で、蜘蛛の妖術を習得して活躍することになっており、本図中の右上にクモが描かれているのは、この故である。図の若菜姫は花魁(おいらん)姿であり、恐らくは仇敵を討つために花魁にやつして苦心している場面であろうが、最近は上演されることもない演目のため詳細は不明である。何よりも、コマ絵の天長節の旗との関連が把握できない。なお、天長節は、いうまでもなく天皇の誕生日の祝典であるが、明治天皇は1852(嘉永5)年9月22日の出生であり、天長節の執行を布告したのは1868(慶応4)年であった。ところが、1872(明治5)年12月に太陽暦を採用したため、翌明治6年の天長節は太陽暦に換算して11月3日となった。本来ならば、毎年、太陽暦との換算を行って日を設定すべきだが、以後11月3日を天長節に定めてしまった。紀元節の期日設定とも共通する問題で、明治政府の体質を示すものであり、現在の″文化の日″がこれを受けついでいることも銘記すべきである。 No.400参照。
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