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解説:1889(明治22)年になって作成した、江戸風俗の1年間の行事風景である。表題に″十二ヶ月の内″とあるから、恐らく各自1枚で計12枚の揃物であろう。本図は、そのなかの10月分で、題材としては豪商の家で催された恵比寿講祝を扱っている。 恵比寿講は、七福神の一つである恵比寿への信仰を基本とした年中行事である。恵比寿は、本来は漁業者の守護神であったが、商業の発展とともに商人の間にも信仰が広がり、同じく七福神の一つである大黒が金運の俗神として信仰されていた。恵比寿講は民間行事であるから、正確な起源や儀式がきまっているわけではなく、期日も1月20日、10月20日を中心として地域により一定しない。10月20日も、もとは誓文払いといって、商家の安売り日であったものが、一つの行事にまとまったともいわれている。江戸では前日の10月19日の夜に、大根の浅漬を売る″べったら市″が大伝馬町周辺で催されて、恵比寿講と一連の行事となって賑わった。 当日の情景は本図に描かれているように、1階の表には、恵比寿の神像を飾り、神酒や供え餅のほか基本帳簿である大福帳を供え、奥の座敷または2階では祝宴を開いて来訪者に振る舞った。1階の内玄関には、関係のある商人などが祝儀の挨拶に来訪しており、内儀とおぼしい人たちがこれに応待している。2階は酒宴の盛りで、上客は別間で静かに接待され、広間では大盃を傾けたり、裸踊りが披露されるなど座は乱れている。この絵で興味深いのは、全体としては細部まで江戸の風俗を再現してあるが、人物――特に女性の表情が明治時代を反映していることである。女性風俗を得意とした作者の周延が、微妙な変化を見逃さずに画像化したというべきであろう。(原島)
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