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解説:歌舞伎十八番のなかでも著名な『勧進帳』で、山伏の由来について関守の富樫左衛門と武蔵坊弁慶が丁々発止のやりとりをみせる″山伏問答″の場面を使ったパロディである。表題の奸人商も山師問答も、本来の表現をもじっていることはいうまでもない。役名の″日なしかし″が富樫に、″米買″は″べいかい″とよんで弁慶に、″現苦労″は源九郎で義経に見立ててある。 本図では、顔の部分を紙幣や米俵におきかえているが、実は絵は添えものであって、主眼は上段の問答にある。冒頭の″奸商ども狡猾の上は、いたしかたあるべからず″が、″勧進帳聴聞の上は、疑いなあるべからず″を下敷きにしているように、すべて本行を忠実にいい換えている。例えば、″袈裟ころもを身にまとい″が″今朝着物を身にまとい″となり、″山伏のいでたち″が″山師の了見″となり、″かけたる袈裟″が″駆けさす事″となり、″九字の真言″が″苦労心配″となっているのである。そして、これはパロディ全般にいえることだが、原文の知識をもたないものには、パロディは全く無価値なのである。本図が板行された1880(明治13)年に、これを購入した人びとにとって、山伏問答のセリフが、かなりの程度で普及していたといえるだろう。(原島)
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