|
解説:『江戸名所』のうち、「大伝馬町呉服店」として、下村大丸屋の店前の正月風景を描いている。大伝馬町には木綿(太物)問屋が多く、大丸屋のように呉服(絹物)も扱う衣類商が軒を並べていた。本図は正月風景ということで、店前には門松が立ち、供人をつれた年礼者や、鳥追あるいは太神楽の一行が、静かな正月の街に行きかっている。 画面中央の、肩衣に袴をつけた町人風の年礼者は、袴のもも立ちをとって下から股引がのぞいている。後に従う供人は年礼の配り物を入れたらしい風呂敷を首からつるし、手には足駄をもっている。ぬかるんだ悪路に出あった時に、主人が使用するために用意したのであろう。同じ年礼者でも左下辺の武士は、頭巾をかぶり、挟箱を担いだ供人を連れている。 女二人づれの鳥追は、門付の女芸人で、手拭で顔をおおい編笠をかぶって三味線を弾いて歌を唄って米銭をもらう。これを女太夫といって、一年中放浪していたが、正月に限って(厳密には七草まで)鳥追と呼んだ。田畑から鳥を追い出す農事慣習の遺風を継承したものといわれている。 右下辺の一行は、曲毬の道具がみえるから、太神楽であろうか。中央に上部がのぞいているのは獅子頭で、獅子舞が太神楽も演じたのである。(原島)
|