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解説:虫を飼育して、そのかすかな鳴き声を鑑賞するというのは、日本文化のなかの一特色である。そうした需要を背景として虫売は存在した。扱われた虫は、こおろぎ・松虫・鈴虫・くつわ虫などのほか、鳴き声でなく蛍や玉虫のように、光や羽の美しさを観賞する虫もあった。虫売の荷台は、図にも描かれているように市松格子ときまっていたもので、これが一種の営業広告の役割を果していた。(原島) ≪「俳優見立夏商人」≫ 『俳優見立夏商人』と題する揃物であるが、何枚の揃物であるかは不明。作者の国貞が、香蝶楼を名のったのは文政~嘉永とされているので、そのころの作品と推定するが、当時すでに始まっていた極印がないため、年代をさらに細かく限定することはできない。 題材は、当時、江戸の街で夏期だけに登場する行商たちを、歌舞伎俳優に見立てて、その風俗を描いている。従って、絵の興味の半分は、見立てている俳優にあるわけだが、特定には今後の検討を要する。水売は、添えてある短歌の読人名の″福珠園″から中村福助であろう。帯にふくら雀が描かれているのも、福助と関連がある。金魚売は、梅屋の読人名から、3世尾上菊五郎かと推定される。同人が俳号の梅幸を一時名のっていたことによる。短歌にも″きくなり駒の″と菊がよみこまれている。但し、成駒屋は福助の屋号なので断定できない。虫売も、″倭園琴楼″の読人名にヒントが陰されていると考えるが、大和屋の屋号というほかには思いつかない。
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