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解説:蓄財と、浪費をいましめる教訓を説くことは、近世中期に成立する心学が、町人らへの処世訓として、さまざまに変容しながら普及していった。処世にとってもっとも大切なものとして金銭を挙げて、それを端的に″金のなる木″と″金の散る木″と表現して、近世後期に流行した盆栽趣味を利用して図案化したのが本図である。″金のなる木(気)″の発想は、黄表紙や滑稽本にも扱われており、本図の独創ではない。幹にあたる中心は″いきをゐよき、ばんじをもしろ木″であり、善心の金のなる木の側は″しんぼうつよ木″″ゆだんのな木″″よろずほどよ木″″しんじんよろし木″″ばんじつうゑな木″と並ぶのに対し、悪心の金のちる木の側は、″しんじんなんぞハをらやだよ″とすべて″おらやだよ″で統一して、以下″あさおき″″しごと″″うなぎでのまなくちゃ″″かせぐこと″と続く。″なる木″側の枝についている葉は小判と宝珠、″ちる木″側は和鋏や鰻の蒲焼や櫛笄などで、正と負を表現する。さらに、この植木鉢を前にして″なる木″側では商人が算盤を使って帳合に忙しく、背後には千両箱が山と積み上げられている。一方の″ちる木″側には三味線を弾く女性の前に酒徳利と酒の肴の竹皮包みがおかれて、散財の形態を暗示している。(原島)
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