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解説:本コレクションには収集作品の少ない大阪の錦絵の一つである。作者は、当時の大阪における代表的錦絵画家であった芳梅で、中判の2枚続という形式も上方浮世絵の特色を示している。 本図が対象としている土井呉服店は、和歌山の商家であって、和歌山を描いた錦絵として珍しいといえよう。店の前に備えた用水桶にかけた覆板に記してあるように、同店は新大工町に所在し、直川屋と称した。開業年代は不明だが、近世後期には町大年寄を勤めるほどの家で、広大な店構えと店頭の繁昌ぶりは『紀伊国名所図会』後編巻一(嘉永4年刊)に掲載されている名家であった。同書の画面と本図とを比較すると、本図が店の右側手前からやや斜に構図をとっているのに対し、名所図会では正面から広く捉えており、店頭の暖簾も本図では2枚半しかないが、名所図会では7枚で、さらに後に続くさまが描かれている。用水桶がおかれている後ろの土蔵風建物の壁が、本図では漆喰とみえるのに対し、名所図会では庇の下からは下見板になるなど、細部では若干の差異があるが、店の外観に大差はない。屋根看板の仕様も同一である。店の前を通行する人びとの描き方は、当然ながら全く別であり、両図には相互の関連性は薄く、従って本図は独自の取材によって作成したものと考えられる。(原島)
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