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解説:鶴屋南北作『お染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』の舞台面を扱った歌舞伎絵である。この芝居は俗に″お染の七役″といって、題名にあるお染と久松、本図に登場している土手のお六、お染の母貞昌、奥女中竹川、お光、芸者小糸という、性格も違う男女七役を1人の俳優が早替りで演じるのも魅力の一つになっている。本図は序幕の最終場面である小梅煙草店の場で、お六と鬼門喜兵衛は夫婦になって、江戸の東はずれになる小梅で煙草店をやっている設定である。この種の歌舞伎絵は3枚続が多いので、本図は1枚が欠落した端物であろう。構図からみて右側の1枚が欠損していると考えられ、そこには店先で行倒れになった油屋の丁稚久太郎が描かれていたと推定される。左隅にある名主2人の改印は、弘化4年~嘉永4年に使用されたというので、この年代に江戸でこの芝居が上演された記録を調べたところ、1848(嘉永元)年5月に市村座で、1850(同3)年正月に河原崎座で上演している(『歌舞伎年表』)。前者では市川小団次、後者では岩井粂三郎(後の8世岩井半四郎)が主演しているが、翌年に同座で半四郎を襲名した時の相手役が市川団十郎で、本図の喜兵衛が三升格子の衣装から団十郎と推定されるので、本図の成立は嘉永3年正月前後と考えられよう。(原島)
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