|
解説:明治5年9月に開業した新橋ステーションに蒸気車が入線する場面。英語のカタカナ表記がまだ一定していなかったようで、ステーションが「ステンーション」になっている。駅舎の建築は、アメリカ人建築家プリジェンスの設計による木骨石造建築で、もう一方の終点である横浜駅とまったく同じ形をしていた。この駅舎のあった場所は現在の新橋駅より200メートルほど東に位置する。現在、その遺構の上に当時の建築を復元する計画が進んでおり、2003年に資料館としてオープンする予定という。 3代広重による「東京府下名所尽」のシリーズは、当館所蔵のものだけで5種類を数える(336 337 395 603 614 615)。本図には改印はないが、No.614が明治7年5月、No.395に明治7年10月の印があるため、およその制作時期がわかる。このシリーズの特徴は、空の部分に手間のかかるぼかしの技法をほとんど用いない点にある。コスト削減の要請から行われたものだろうが、空に平面的な模様を刻む表現は、新しい感覚といえなくもない。またこの時期の広重の構図には、無理に対象を詰め込むのではなく、枠で切るという、写真のフレームワークのような感覚が見られる。本シリーズには、No.614のように3枚組の横長画面の作品の中の一枚をほぼそのまま使って、一つの縦長画面の作品にしたものもある。あるいはこういう経験が、広重の視覚の近代化を促したのかもしれない。(田島)
|