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解説:本図に描かれている建物は、1872(明治5)年6月に三井組によって海運橋のたもとに建てられたもので、初め三井為換座、三井組ハウスなどと呼ばれた。擬洋風建築の代表作で、設計・施工は清水喜助。2階建ての西洋風建築の上に唐破風・千鳥破風を備えた城郭風の上層を作り、その上さらに物見櫓風の高楼を突出させるという、実に独創的な様式で作られている。竣工後ほどなく、三井組から新たに制度化された国立銀行に譲り渡され、1873(明治6)年8月、第一国立銀行として開業した。築地ホテル館、駿河町三井組ハウスと並ぶ、明治初期の巨大建築で、この建物を主題にした開化絵は非常に多い。現在この場所には第一勧業銀行兜町支店があり、「銀行発祥の地」の碑がある。 開化絵は単なる鑑賞画ではなく情報伝達の側面が強いため、名所を描く場合もその全景がわかるように描かれる傾向が強い。そのため、江戸時代の初代広重や、北斎らの優れた風景画と比べると、構図上の面白みが少ないものが多い。ただ、この建物のように完成以来おびただしい数の絵が描かれ、知らないものがいないほど浸透してくると、ちょっと変わった構図も試みられる。本図は建物上部の展望台の部分だけをアップでとらえている。皇居越しに富士山が見えているのも位置関係的に正しい。(田島)
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